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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2943号 判決 1966年6月20日

破産者株式会社東京電工社破産管財人

原告 鈴木多人

被告 瑞穂電設有限会社

被告 小田切進

被告 高橋新一郎

被告 八光電設有限会社

被告 上村電気工事有限会社

被告 光伸電気株式会社

被告 管原正雄

被告 田津清

被告 大山昌一

主文

1  被告田津清は原告に対し金一二五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四〇年一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告大山昌一は原告に対し金二三万円およびこれに対する昭和四〇年一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  原告その余の被告らに対する請求を棄却する。

4  訴訟費用中、原告と被告田津清および大山昌一との間に生じた分は同被告らの負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じた分は原告の負担とする。

5  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、原告主張の請求原因第一項の事実は、原告と被告田津清および同大山昌一との間では争がなく、その余の被告らに対する関係では証人川上友雄の証言およびこれにより真正に成立したと認める甲第二号証の一ならびに弁論の全趣旨により認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、破産者が被告瑞穂電設有限会社に対し昭和三九年一一月二一日金五万円を、被告八光電設有限会社に対し同日金五〇万円、同年一二月一日金五〇万円を、被告菅原正雄に対し同年一一月二一日金六万円、同年一二月一日金一九六、七〇〇円を被告田津清に対し同年一一月二一日金七万円、同年一二月一日金五五、〇〇〇円を、被告大山昌一に対し同年一二月八日金二三万円を下請電気工事代金および労務賃として支払ったことは、それぞれ当該各被告において認め、或は、明らかに争わないところであり、原告と当該被告との間で成立に争のない甲第四号証の一、二、第七号証の一、二、証人川上友雄紅谷好章の各証言、被告小田切進、同高橋新一郎、被告代表者上村留作、同鈴木弘孝の各本人尋問の結果によれば、破産者が被告小田切進に対し同年一一月三〇日金八三、〇〇〇円を、被告高橋新一郎に対し同月二四日金五万円、同月三〇日金一二万円を、被告上村電気工事有限会社に対し同月二四日金七万円、同月三〇日金二三万円を、被告光伸電気株式会社に対し同月二四日金二五万円および金一五万円、同年一二月二日金一四万円および金一二万円を下請電気工事代金および労務賃として支払ったことが認められる。甲第四号証の二には破産者から被告高橋新一郎に同年一一月三〇日に支払われた金額が金一七万円であるかのような記載があるけれども、右金額は同月二四日に支払われた金五万円に対する領収証が仮領収証(甲第四号証の一)の形で発行されていたので、右金五万円を含めたものであることが被告高橋新一郎の本人尋問の結果により明らかであるから、右記載によって右認定を覆すことはできない。甲第八号証の五には原告が主張するように破産者から被告光伸電気株式会社に対し同年一一月三〇日金二万円が支払われたかのような記載があるけれども、被告代表者鈴木弘孝の本人尋問の結果によれば右金員の支払われた事実はないのに、同被告が破産者の職員に依頼されてリベートのつもりで虚偽の事実を書いて右書証に渡したものであることが認められるから、右書証によって原告の右主張事実を認めることはできない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三、証人川上友雄、紅谷好章の各証言およびこれにより真正に成立したと認める甲第二号証の四によれば、破産者が右各被告らに対しなした前記支払はいずれも破産者が他の債権者を犠牲として、特定の債権者である被告らにのみ利益を与えようとする意思をもってなした弁済であることが認められるから、右支払は破産者が破産債権者を害することを知ってなした行為というべきである。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。(被告大山昌一はこの点を明らかに争っていない。)

四、しかして被告田津清は右情を知らなかったとの抗弁を主張しないのみならず、同被告本人尋問の結果によれば同被告は右情を察知していたものであることが認められ、被告大山昌一は右情を知らなかったと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠がないから、同被告の右抗弁は採用しがたい。したがって、破産者のなした右支払のうち被告田津清および被告大山昌一に対しなされたものは破産法第七二条第一号に該当するものとして否認さるべきものであるから、原告に対し被告田津清はその受領した金額である金一二五、〇〇〇円、被告大山昌一は同金二三万円および右金員に対する受領の後である昭和四〇年一月一日から支払ずみまで商法所定の年六分割合による利息を支払うべき義務があるので、同被告らに対する原告の本訴請求は理由があり認容すべきものである。

五、そこで、被告瑞穂電設外五名および被告管原正雄はそれぞれ右支払が破産者が破産債権者を害することを知ってなしたものであることは知らなかったと抗弁し、証人紅谷好章の証言、被告小田切進、同高橋新一郎、同管原正雄、被告代表者大野秋夫、同小室八郎、同上村留作、同鈴木弘孝の各本人尋問の結果によれば、右被告らは破産者の下請仕事をしていたものであるが、破産者の経営内容の実態を知らず、破産者が前記手形不渡を出したことも知らなかったところ、破産者は右支払をする際極力手形不渡を出した事実を秘し、関東電気工事株式会社の支援によって経営を継続するから、従来どおり下請工事を続行して貰いたいと強調していたので、各被告らはそれぞれ右支払が破産者が破産債権者を害することを知ってなすものであることを知らなかったものであることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はないから右被告らの前記抗弁は理由がある。

六、しかして原告は右被告らに対する支払が支払停止後になされたものであって、右被告らはその情を知っていたものであると主張するけれども、右被告らがその支払を受ける当時、支払停止後であることを知っていたものであることを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前掲証拠によれば右被告らはこれを知らなかったものであることが窺われる。したがって、右被告らに対する支払は否認さるべきものとはいえないので、右被告らに対する原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものである。

七、よって<以下省略>。

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